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アメリカ人事|LAドジャース-クリス・テイラー解雇に見る米国流“人情”とは

 アメリカ人事|LAドジャース-クリス・テイラー解雇に見る米国流人情とは


2025年5月、ロサンゼルス・ドジャースがベテランのユーティリティプレーヤー、クリス・テイラーをリリースしたというニュースが流れた。ドジャースファンのみならず、MLBに関心のあるすべての人事関係者にとって、このニュースは単なる戦力整理以上の意味を持っていた。

10シーズンにわたりドジャース一筋でプレーし、ポストシーズンで何度も輝きを放ったテイラー。その功績は誰もが認めるところである。だが、今季の成績は低迷しており、チーム内の若手台頭も相まって、ついに“その日”が来た。

リリース=冷酷、ではない

日本の感覚では「長年貢献した社員(選手)を一方的に解雇するなど情がない」と思われるかもしれない。だが、米国式人事の価値観では「誠実に別れの選択肢を提供すること」が最大限の敬意である。

今回のテイラーのケースは、「DFA(戦力外通告)」ではなく直接のリリース(自由契約)という形をとった。これは単なる技術的処理ではない。彼に選択肢と尊厳を残すという、米国人事の“人情”なのではないかと思われる。

なぜDFAではなくリリースか

テイラーはメジャー10年・同一球団5年以上の「10-5権利」を持っており、DFAやマイナー降格を拒否できる立場にあった。それを逆手に取って引き延ばすのではなく、ドジャースは潔く契約解除を宣言し、全額の年俸とバイアウトを支払う決断をした。

これは会社で言えば、本人が望まない配置転換や降格を押し付けるのではなく、全額の退職金(Severance Pay)を支払い、自らの意志で次の職場を選べるようにする、という姿勢に通じる。冷酷に見えて、きわめて人間的な選択である。

それは「誠意を尽くした別れ方」とも言える。

成果が出ていない、チーム事情に合わなくなった――だからといって、その貢献をなかったことにはしない。ドジャースのアンドリュー・フリードマン野球運営部門代表も、記者会見で「クリスには心から感謝している。これは非常に難しい決断だった」と語っている。最後まで人として扱うことが、米国式の美学だと私は感じた。

日本企業への示唆

テイラーのリリースに込められた人情のある誠意ある別れ方は、在米日系企業にも参考になる解雇の方法ではないだろうか。
単なるルールの運用ではなく、相手の尊厳に配慮した決断こそ、これからの在米日系企業の人事にも求められるものではないかと思う。

ドジャースという球団が、テイラーに送った最後の“人情“は、別れの中にもリスペクトが込められていた。人材の「入社より退社の時にこそ、その会社の人事の真価が問われる」といわれる所以である。

人を斬ることは避けられない。だが、どう斬るかにはその組織の哲学がにじみ出る。
それがアメリカ人事の教えてくれる、大きな示唆である。

クリス・テイラーのリリースに関する事実整理

(球団視点/選手視点)

【球団側の視点】──ロースター構成と誠意の両立

  1. 状況判断
  • クリス・テイラーは2025年5月時点で、成績が大きく低迷しており、OPSも.457にとどまっていた。
  • 一方で、チーム内では若手の台頭が続き、ロースター枠に限りがある中、編成上の見直しが急務となっていた。
  1. 契約状況
  • テイラーは2022年からの4年契約の最終年にあり、2026年には1,200万ドルの球団オプションが存在した。
  • 残り年俸とバイアウト分を含め、金銭的負担が大きい状況にあった。
  1. 対応判断
  • 本来であればDFA(戦力外通告)を通じてロースターを空けるところであるが、テイラーは10年のMLB在籍と5年以上の同一球団所属を満たす「10-5権利」を有していた。
  • そのため、DFAを通じたマイナー降格や他球団移籍の選択肢は、本人の同意なしには成立しない。
  • 手続きを引き延ばし状況を悪化させるよりも、最初からリリース(契約解除)を選択することが、本人への誠意であり、チームとしての誠実な対応であると判断した。
  1. 結果と影響
  • リリースにより、ドジャースはロースター枠を確保し、将来性ある選手に機会を与えることができた。
  • 一方で、テイラーの過去の貢献に報いる形で、年俸は全額保証し、自由に次の道を選ばせるという形で“筋を通した別れ方”を貫いた。

【選手(テイラー)側の視点】──キャリアと尊厳の両立

  1. ベテランの権利
  • テイラーは2025年時点でMLB在籍10年目、ドジャース所属9年目であり、「10-5権利」を有していた。
  • この権利により、球団からの一方的なトレードやDFA、マイナー降格を拒否することができた。
  1. 選択肢の評価
  • DFAを受け入れた場合、他球団によるウェーバー獲得の可能性があるが、現在の高額契約を引き継ぐ球団はほぼ存在しないと予想された。
  • ウェーバーを通過しても、マイナー降格を拒否すれば、最終的には契約解除に至る可能性が高い。
  • つまり、DFAを経ても時間を浪費するだけで、得られる結果は大きく変わらないという状況にあった。
  1. リリースの利点
  • リリースにより、即座にフリーエージェントとして他球団と自由に交渉できる
  • ドジャースとの契約は終了するが、年俸(約955万ドル)と2026年のバイアウト(400万ドル)は全額保証される
  • 最低年俸で契約することになっても、それは追加収入となるため、金銭面でも損をしない。
  • 移籍先を自ら選ぶことができ、キャリア終盤を自分の意思でデザインできる状況に立てた。

【まとめ:双方の立場における合理的かつ温情ある決断】

観点

球団側

テイラー側

前提条件

成績低迷、ロースター圧迫、10-5権利の存在

10-5権利の保持、将来的な出場機会の希薄化

DFA回避の理由

時間的・人的コスト回避と誠意ある決断

意味のないプロセスを省略し、自由な道を選ぶ

メリット

ロースター整理、温情ある処遇、球団の評判維持

年俸全額確保、移籍先の自由選択、キャリアの尊厳保持

デメリット

高額年俸の負担継続、功労者との別れ

所属球団喪失、再契約の不確実性

結論

クリス・テイラーのリリースは、数字とロジックに基づいた冷静な人事判断でありながら、人としての尊厳と誠実さを重んじた温情ある決断であったといえる。

それはまさに、米国式人事における「泣いて馬謖を斬る」の一つのかたちである。感情に流されず、制度に従いながらも、最後の最後で誠意を尽くす。そこに、単なる戦力整理にとどまらない、プロフェッショナルとしての別れ方の美学が存在する。

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