2025年5月17日土曜日

アメリカ人事【在米日系企業向け】マッキンゼー調査に学ぶ、出社と柔軟な働き方の最適バランス

 アメリカ人事【在米日系企業向け】マッキンゼー調査に学ぶ、出社と柔軟な働き方の最適バランス

~RTO率安定後も問われる「働き方戦略」~

2025年5月、マッキンゼー社は全米の労働者を対象とした「American Opportunity Survey」に基づく最新レポートを発表した。それによれば、パンデミックを契機に広がったリモートワークやハイブリッド勤務は、いまや一過性ではなく「定着した常識(entrenched norm)」であるという。

 

本記事では、この調査結果をふまえ、在米日系企業が人材確保と定着率向上のために今すぐ取り組むべき3つのアクションを考えてみよう。

 

アクション①:従業員の希望と働き方モデルのズレを「見える化」

マッキンゼーの調査では、労働者の過半数がリモート勤務を希望しており、企業側の希望と一致しているのは全体のわずか40%であることが示された。つまり、多くの企業では、従業員の希望と実際の働き方に乖離がある。

 

在米日系企業でも、「日本本社の意向」や「現地マネージャーの感覚」に基づいて出社を義務化しているケースが見られる。しかしその判断が、実は優秀な人材の流出やモチベーション低下を招いている可能性がある。まずは従業員アンケートや1on1面談を通じて、働き方に関する“温度差”を可視化することが考えられる。

 

アクション②:「全員出社」でも「全員リモート」でもない、役割別設計導入

報告書では、出社率が2022年の53%から2024年には58%に増加している一方、「オフィス出社はパンデミック前より平均30%減少」しているという。注目すべきは、フルリモートよりも「ハイブリッド勤務」が最も好まれているという点である。

 

全社的に「毎日出社」か「完全リモート」かの二者択一にするのではなく、業種・役割・業務特性に応じた柔軟な設計が必要である。たとえば、販売や製造現場は対面が必須だが、経理・人事・マーケティングの一部業務はハイブリッドで運用可能である。在米日系企業においても、日本的な「全員一律」を脱却し、ジョブ型運用を強化する転換期が到来している。

 

アクション③:「柔軟性」を制度化し、リテンション施策として活用

レポートでは、過去1年以内に離職した人のうち17%が「勤務形態の変更」を理由に退職したとされている。また、「高い給与」「キャリア機会」に次ぐ転職動機として、柔軟な働き方(例:子ども同伴勤務など)がトップ3入りしていることも注目に値する。

 

つまり、柔軟性はもはや「福利厚生」ではなく、「人材確保と定着のための戦略的武器」である。具体的には、次のような制度の導入・見直しが求められる:

 

フレックスタイム制や週4日勤務の試験導入

 

子育て・介護を考慮した時短勤務の選択肢

 

リモートワーク時の経費・設備支援制度

 

企業が柔軟性を制度として整備することで、「この会社なら長く働ける」と思わせる信頼を築くことができる。

 

まとめ

働き方に関する企業側の一方的な方針は、今やリスクである。マッキンゼーの調査が示すように、柔軟な働き方は「従業員満足」のための手段ではなく、「人材競争に勝ち抜くための戦略」である。

 

在米日系企業においては、「日本的価値観」と「米国的働き方」の狭間で揺れ動く現場が多い。だからこそ、データに基づき、自社に最適な「柔軟性」を戦略的に設計・制度化することが、これからの経営の鍵となるだろう。

https://www.hrdive.com/news/rto-rates-stabilize-flexibility-mckinsey/747815/?utm_source=Sailthru&utm_medium=email&utm_campaign=Newsletter%20Weekly%20Roundup:%20HR%20Dive:%20Talent%20Daily%2005-17-2025&utm_term=HR%20Dive:%20Talent%20Weekender

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アメリカ人事 | スターバックスのストライキに学ぶ――雇用主が今すぐ取るべき2つのアクション

 アメリカ人事 | スターバックスのストライキに学ぶ――雇用主が今すぐ取るべき2つのアクション


2025年5月、スターバックスで発生したストライキは、たかが服装ルールが引き金だった。全米50店舗以上の労働者が職場を離れた原因は、新たに導入されたドレスコードである。

黒のシャツと指定された色のパンツという制限が、企業のブランド価値向上という名目で一方的に導入されたことが、現場の怒りを呼んだ。

もちろん、ドレスコードを定めること自体は、企業の裁量の範囲内であり、法律上の問題は通常生じない
しかし今回のケースは、組合との合意形成を怠った点が火種となり、現場の不満が一気に噴出したという構図である。

そして重要なのは、組合の有無に関係なく、こうした不満がどの企業にも潜在している可能性がある、という点である。

以下、非組合企業であっても今すぐ取り組むべきアクションを2つ提示する。


アクション①:現場の「生活コスト」を軽視しない制度設計を

スターバックスでは、新ドレスコードに対応するために新たな衣服の購入を余儀なくされた従業員が多く、「買い替えの余裕がない」との声も上がった。

企業側は無料でTシャツ2枚を配布したものの、十分とは言えない。
制度変更を行う際には、現場が実際にどれだけ負担を受けるか経済的・心理的インパクトを可視化する姿勢が欠かせない。

特にサービス業や低賃金業種では、「制服ルールひとつ」で士気が大きく変わるという現実を見逃してはならない。

(これはユニフォームではないため、企業側が購入を義務づけられるタイプのドレスコードではなかった)


アクション②:「見た目の統一」よりも「現場の納得と体験の質」を優先せよ

スターバックスは、CEOの方針のもと「コーヒーハウス体験の一貫性」を目的にドレスコードを厳格化したが、従業員はこう語った。

「お客様は、私たちの服の色よりも、30分も待たされるラテを気にしている」

この発言は、現場の本音であり、サービスの本質を突いている
いくら見た目を整えても、現場の納得がなければ顧客体験はむしろ損なわれる。

制度はトップダウンで整えるのではなく、現場と共に形作る「共創型」であるべきだ


総括:制度変更の裏にある“声なき不満”を聞き逃すな

スターバックスの今回のストライキは、「合法であっても、現場が納得しなければ制度は機能しない」ことを示している。

たとえ組合が存在しなくても、制度の変更が従業員の働く意義や尊厳に影響することはある
企業は、“見た目”の統一よりも、「働きがいのある職場」の実現こそが、ブランドを支える力になる


出所:
Starbucks union workers strike over dress code changes – HR Dive, May 14, 2025

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▼写真の出所
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アメリカ人事【2026年HSA上限発表】企業が今すぐ取り組むべき3つの戦略的アクション

 アメリカ人事【2026年HSA上限発表】企業が今すぐ取り組むべき3つの戦略的アクション


▼出所
https://www.irs.gov/pub/irs-drop/rp-25-19.pdf

2025年5月、米国国税庁(IRS)は2026年の健康貯蓄口座(HSA)の非課税拠出限度額を発表した。この発表は、雇用主にとって従業員の福利厚生戦略を見直す絶好の機会である。以下に、雇用主が取るべき3つの具体的なアクションを示す。


1. HSA拠出限度額の変更を従業員に周知し、教育する

2026年のHSA拠出限度額は以下の通りである:

  • 個人加入:$4,400(前年より$100増加)

  • 家族加入:$8,750(前年より$200増加)

  • 55歳以上のキャッチアップ拠出:追加で$1,000(変更なし)

これらの変更を従業員に適切に伝えることが重要である。特に、給与天引きによる拠出を行っている従業員には、限度額超過による税制上のペナルティを回避するため、早期に情報提供を行うべきである。また、HSAの三重の税制優遇(拠出時の所得控除、運用益の非課税、医療費支出時の非課税)についても再教育を行い、従業員の理解を深めることが望ましい。


2. 高控除健康保険プラン(HDHP)の適格性を再確認する

HSAの利用には、特定の条件を満たす高控除健康保険プラン(HDHP)への加入が必要である。2026年のHDHPの要件は以下の通りである:

  • 個人加入:年間自己負担額が$1,700以上、自己負担上限が$8,500以下

  • 家族加入:年間自己負担額が$3,400以上、自己負担上限が$17,000以下

これらの要件を満たさないプランでは、従業員がHSAの税制優遇を受けられない可能性がある。したがって、雇用主は自社の保険プランがこれらの基準を満たしているかを確認し、必要に応じてプランの見直しを行うべきである。


3. HSAを退職後の医療費備えとして位置づけ、従業員の拠出促進を図る

HSAは、現役時の医療費支出だけでなく、退職後の医療費備えとしても有効な手段である。特に、55歳以上の従業員は追加のキャッチアップ拠出が可能であり、退職後の医療費に備えることができる。雇用主は、HSAを退職後の医療費備えとして位置づけ、従業員に対して拠出の重要性を啓発することが求められる。また、従業員が最大限の拠出を行えるよう、給与天引きの仕組みを整備し、拠出の促進を図るべきである。


2026年のHSA拠出限度額の変更は、雇用主にとって従業員の福利厚生戦略を見直す好機である。上記の3つのアクションを実行することで、従業員の健康と財務の両面での安定を支援し、企業としての競争力を高めることができる。

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▼写真の出所
https://unsplash.com/ja/@kate_gliz 

 

2025年4月25日金曜日

アメリカ人事| Uberの自動車保険情勢を受け、ビジネスオーナーが取るべき対策

 アメリカ人事| Uberの自動車保険情勢を受け、ビジネスオーナーが取るべき対策


 2025年4月25日のニュースで、Uberが複数州で事業用自動車保険の規制改革を求める廣告キャンペーンを開始したことが伝えられた。

▼Uber has its eye on commercial auto insurance reform
https://www.propertycasualty360.com/2025/04/25/uber-has-its-eye-on-commercial-auto-insurance-reform/?kw=Uber%20has%20its%20eye%20on%20commercial%20auto%20insurance%20reform&utm_source=email&utm_medium=enl&utm_campaign=newsroomupdate&utm_content=20250425&utm_term=pc360&oly_enc_id=1450C8995923H0V&user_id=6f6e182087af8c2ae0626d1092a5495981117adfefb31bd8a0aa1f569406738f

 

通常の個人車の責任保険は$30,000程度なのに対し、Uberや交通ネットワーク企業(TNC)には$1,000,000という大きな保険要件が設けられることが多い。

これは企業側に大きな財政負担を起こし、結果として事業コストの増加に。

この動きから、他のビジネスオーナーも必要な対策を検討するべき時期に来ていると言える。


【これから注意すべきこと】

1) 自社の保険リスクをチェック さらに保険要件が変わったら実際にどのぐらい財政負担が増えるのか?をシミュレーションしておく。

2) 事業コストに保険費用負担増が影響を与えない組織作り
例えば、自社で車を持たず、委託に切り替えるなど。その際にも「保険の最低要件」を定め、緊縮にチェックする。

3) 価格改定やサービス費課金の説明準備 保険負担増は一部をサービス料に反映せざるを得ない場合もある。その場合は、法律対応によるものであることを明確にし、理解を得る。

4) 州別の保険要件の変更を緊密チェック 特に、カリフォルニア、ニューヨーク、マサチューセッツ、テキサスなどは要注意だ。


 Uberの動きは、これから自動車を利用する事業における保険負担リスクが高まり続けるというサインだと言える。

たとえ現状で大きな問題がなくても、「先手の一手」をっておくことで、未来のダメージを最小限に抑えられる。

今こそ準備して、ゆとりをもってビジネスを進めよう。

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2025年4月22日火曜日

アメリカ人事|なぜTESLAは儲かっていないのか?

 アメリカ人事|なぜTESLAは儲かっていないのか?


経営者の悩みの75%は「お金」と「人」の問題だと言われている。
アメリカ人事では、ビジョンを達成するための人材戦略と、持続可能なキャッシュフローを両立させることが成功のカギである。

今回は、EV業界の象徴ともいえるTESLA(テスラ)が、なぜ株式市場での存在感に反して「儲かっていない」と言われるのか。その構造的課題に迫る。


【TESLAとはどんな会社か?】
TESLA(テスラ・モーターズ)は2003年創業の電気自動車(EV)メーカーである。CEOイーロン・マスク氏のもと、「世界を持続可能なエネルギーに移行させる」というミッションを掲げてきた。
主力製品はModel 3、Model YなどのEVに加え、ソーラー、蓄電池、AI開発にも事業領域を広げている。

2020年以降のEVブームと株式分割によって、時価総額が一時1兆ドルに達するなど、破格の評価を受けてきた。


【2025年第1四半期の業績ハイライト】

  • 売上高(Revenue): 213億ドル(前年同期比9%減)
    → 値下げにより販売台数は増加したものの、売上は減少。

  • 粗利益(Gross Profit): 約39億ドル(粗利益率約18.3%)
    → 昨年同時期の粗利益率は19.3%であり、利益率がさらに低下。

  • 営業利益(Operating Profit): 約11億ドル(営業利益率約5.2%)
    → 営業利益率は前年同期の11.4%から大幅に減少。

  • 純利益(Net Income): 約11億ドル(純利益率約5.2%)
    → フリーキャッシュフローは約4.4億ドルで、前年同期の約22億ドルから大きく縮小。

出所:https://www.appeconomyinsights.com/p/tesla-the-great-slump

これらの数値からも明らかなように、TESLAの2025年第1四半期は、売上・利益率・キャッシュフローのすべてで苦戦を強いられている。


【TESLAの「儲からない」構造的要因】

① 利益を犠牲にした価格競争戦略
TESLAは2023年以降、主力車種の大幅な値下げを実施してきた。Model Yは一部市場で30%以上値下げされ、価格競争に拍車がかかっている。
販売台数は維持しているものの、1台あたりの利益が急減しており、粗利益率の低下に直結している。

② 中国市場への依存とリスク
TESLAの売上の約30%を占める中国市場では、BYDなどのローカル競合が攻勢を強めており、価格競争が激化している。
加えて、米中対立やEV補助金政策の変化により、TESLAの収益構造には地政学的リスクが常に付きまとう。

③ Cybertruckの量産課題と固定費の圧迫
話題の新型車Cybertruckは、2024年にようやく出荷が始まったが、量産には依然として課題が残っている。
TESLAのイノベーション志向は魅力であるが、開発費や設備投資といった先行コストが利益を大きく圧迫している。

④ 自動運転やAI事業の未収益化
TESLAは自社開発のAIチップ「Dojo」や完全自動運転(FSD)に巨額の投資を続けているが、これらの事業は現時点では収益に結びついていない。
技術的先進性をアピールする一方で、「今、利益を出す」構造には至っていない。


【人的資源と組織文化の課題】

TESLAは長年、広告に頼らず製品力のみで成長してきた企業である。しかしその裏では、過酷な労働環境や高離職率が指摘されてきた。
マスク氏の強いリーダーシップによるスピード感ある経営は革新をもたらしたが、従業員のモチベーションや定着性の面では課題が残る。

近年は労働組合活動の活発化や、職場の安全衛生に関する批判も増加しており、企業文化や人事制度の見直しが急務となっている。


【まとめ:TESLAが「儲かる会社」に転換するために】

TESLAは、世界を変えるイノベーション企業として確固たる地位を築いてきた。しかし、「儲かる会社」であるかと問われれば、答えは否である。

  • 高成長の裏で価格引き下げに依存した薄利体質

  • 巨額の先行投資と量産課題による固定費の圧迫

  • 人事制度と組織マネジメントの未成熟

これらの構造的課題を克服するには、技術開発だけではなく、利益が出る仕組みづくりと、持続可能な人材戦略の再構築が求められる。
アメリカ人事の視点から見ると、「未来を描く会社」が「今、利益を生む会社」に進化するためには、人事制度の最適化が成否を分けるカギとなる。


出所:https://www.appeconomyinsights.com/p/tesla-the-great-slump?img=https%3A%2F%2Fsubstack-post-media.s3.amazonaws.com%2Fpublic%2Fimages%2Fbef936e6-3efa-43b3-88d7-7ec620cdb33b_2744x1539.png&open=false




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▼写真の出所
https://unsplash.com/ja/@plus
 

 

2025年4月21日月曜日

アメリカ人事 | アメリカの日系企業に問われるDEIの再設計

 

アメリカ人事 | アメリカの日系企業に問われるDEIの再設計

~インド企業の地に足の着いた改革に学ぶ~

アメリカにおけるDEI(ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン)政策が政治的緊張を帯びる中、日系企業はこれまで以上に戦略的なスタンスを求められている。トランプ大統領が2025年に発した大統領令により、連邦政府関連企業におけるDEI施策の禁止が明文化され、大手企業の間でもDEIプログラムの見直しが相次いでいる。

このような逆風の中で、DEIにどう向き合うべきか。そのヒントは、アメリカではなく、インド企業の変革にこそ見出せる。

インド企業が見せた“目的志向”のDEI

米SHRMが報じたところによれば、インドではここ10年で「チェックリスト型DEI」から「文化として根付いたDEI」へと進化を遂げている。特筆すべきは、女性の復職支援、LGBTQ+や障がい者へのインターン機会提供、宗教や出自を問わない採用方針、そして管理職へのインクルージョン教育など、制度ではなく現場の意識と文化の変革に主眼が置かれている点である。

企業の目的が「良い人材を活かす」ことにある以上、その前提として、多様な人材が安心して能力を発揮できる環境を整えるのは、当然の経営課題である。インド企業は、これを“政治色のない実務”として冷静に取り組んでいる。

出所:SHRM “Indian Companies Make ‘Remarkable Transformation’ with I&D”
www.shrm.org/topics-tools/employment-law-compliance/indian-companies-make-remarkable-transformation-with-id

日系企業が取るべき“現実的”DEIの処方箋

アメリカに拠点を持つ日系企業もまた、政治的な配慮を要する環境下で、次のような“実務志向”のDEIへと舵を切るべきである。

1. 「多様性」ではなく「公平性のある機会提供」にフォーカスする

「DEI」というワードを表に出すことなく、スキルベース採用やバイアス除去の仕組みを裏方で機能させることは十分可能である。採用評価シートの見直し、性別や出自に関係ない昇進基準の明確化などは、アメリカでも合法的かつ効果的な対応策である。

2. インクルージョン教育は“文化づくり”と認識する

バイアス研修を「人権意識向上の場」と捉えると、政治的誤解を招くおそれがある。しかし「部下の能力を引き出すマネジメント研修」と位置づければ、DEIと気づかれずにインクルージョン文化を育てることができる。

3. 小さな成功体験を積み重ねる

いきなり制度を作る必要はない。LGBTQ+のインターン採用を一例導入してみる。障がい者の業務マニュアルを整える。育休からの復職を支援する制度を1名から試す。こうした“DEI的であるがDEIとは言わない”アプローチが、現場と本社の温度差を埋める鍵となる。

法的リスクを回避しながらDEIを進めるための具体策

現在のアメリカでは、DEI施策に対する法的なリスクが高まっている。企業が法的リスクを回避しながらDEIを推進するためには、以下のような具体策が有効である。

  1. スキルベースの採用と昇進
    候補者のスキルや経験に基づく評価を重視し、特定の属性に基づく優遇措置を避けることで、法的リスクを軽減できる。

  2. 包括的な職場文化の醸成
    多様なバックグラウンドを持つ従業員が安心して働ける環境を整えることで、自然な形で多様性を促進できる。

  3. 法的な専門家との連携
    DEI施策が現行の法律に適合しているかを定期的に確認し、必要に応じて調整を行うことで、法的リスクを最小限に抑えることができる。

政治リスクを避けつつ、人を活かす

アメリカでは今後、州ごとの規制格差も広がる可能性がある。そうした環境下において日系企業に求められるのは、「社会的トレンド」ではなく、「経営上必要な戦略」としてDEIを再定義する姿勢である。

DEIとは、「誰かを優遇する制度」ではなく、「すべての人が能力を発揮できる環境をつくる仕組み」である。インド企業のように、静かに、着実に、価値ある多様性を育てていくことが、これからの日系企業にとっての現実的な道である。
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アメリカ人事 | 関税不況時代にレイオフは処方箋か?~Saks Globalが約450名レイオフ~

  

アメリカ人事 | 関税不況時代にレイオフは処方箋か?~Saks Globalが約450名レイオフ~

― Saks Globalの事例から考える、雇用を守る経営戦略

2025年4月、Saks Globalがテネシー州にある物流センターを閉鎖し、約450名をレイオフすると報じられた。このニュースは、単なる一企業の構造改革ではなく、アメリカの百貨店業界全体が直面している経営課題を象徴する出来事として注目に値する。

背景にあるのは、トランプ政権下で再導入された中国からの輸入品に対する関税(タリフ)である。Moody’sの分析によれば、こうした関税措置は百貨店業界の税引前利益(EBIT)を10%押し下げる見通しだとされており、特にSaksやKohl’sといった中価格帯から高価格帯を扱う企業が影響を受けやすいとされている。

しかし、ここで問いたいのは、「レイオフは本当に最善の対策なのか?」という点である。

短期的コスト削減と引き換えに失うもの

確かにレイオフは即時的なコスト削減策であり、財務的な応急処置としては一定の効果を持つ。しかしSaksのようにラグジュアリーブランドとしての顧客体験を重視する企業にとって、従業員は単なる労働力ではない。彼らはブランドの顔であり、接客やスタイリングを通じて顧客と感情的な関係を築く存在である。彼らを一斉に削減することは、ブランドへの信頼喪失やサービスの質の低下を招き、結果的に売上減少につながるリスクがある。

雇用を守る3つの代替案

レイオフ以外にも、企業が取るべき選択肢は存在する。以下にその一部を示す。

1.ベンダーとの協調的再交渉

報道によれば、Saksは支払いの遅延や強引な条件変更によってサプライヤーの信頼を失っている。これに代わり、誠実な情報開示と双方向の交渉に基づいた協調的なコスト見直しを行えば、関係性を維持しながらコスト調整が可能である。

2.短時間勤務や一時的休業(furlough)の活用

需要が一時的に落ち込んでいる場合、レイオフではなく短時間勤務制度や無給休暇制度の導入により、人材を維持したまま一時的な支出削減を行うことができる。特に一部の州では、こうした制度に対する助成金や失業保険の支援も受けられる。

3.物流・販売戦略の再設計

関税の影響を受けにくい販路や商品の見直し、あるいはeコマースや店舗受け取り(BOPIS)などのオムニチャネル強化により、物流センター閉鎖の影響を最小限に抑える戦略も考えられる。業務の単純な縮小ではなく、「再設計」こそが必要だ。

人を守る経営が、企業価値を守る

経営が厳しくなったときこそ、その企業の「本質」が問われる。単純にコストを削減するのではなく、従業員・サプライヤー・顧客との信頼関係を守りながら、どのように柔軟に戦略を組み替えていくかが重要である。

レイオフは確かに短期的には有効な手段かもしれない。しかし、それは最後の選択肢であるべきだ。いま問われているのは、「どう削るか」ではなく、「どう守るか」なのではないだろうか?

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